朝日新聞
平成12年6月19日月曜日夕刊
「ほがらか」掲載分

朝日新聞6月19日夕刊より

■以下は朝日新聞のホームページに掲載されたものです。■

絶滅危惧下着 ふんどしの旅
手縫いは「みそ汁の味」

 鹿児島の郷土名菓「兵六餅(ひょうろくもち)」を包んだ箱には、ふんどし姿の薩摩隼人(さつまはやと)が登場する。勇ましさを醸すのは、ひとつはこの下着の効果だろう。包まれたのが素朴な味の餅菓子だというところもユーモラスだ――日本の伝統下着をあまり見かけない。だが目を凝らすと、あちらこちらの土俵際で踏ん張りをみせる。

写真:「兵六餅」
ふんどしを締めた薩摩隼人が登場する「兵六餅」。鹿児島市のセイカ食品が昭和6年から製造・販売。戦後、進駐軍から「パンツをはかせろ」と注文がついた

 インターネット上にはふんどし専門店「褌屋(ふんどしや)」も登場した。

 阪神大震災から1カ月ほどたったころだ。和裁の仕事をしていた京都の中田光一さん(50)の元に、知人を通じて越中(えっちゅう)褌の注文が入った。注文主は60代の男性。ふんどしを縫ってくれていた妻を震災で亡くし、自分にぴったりのふんどしが見つからないという切実な声だった。請け負うと、よく洗った現物を送ってきた。丁寧に5枚を仕立てて送ると「これからもよろしく」と礼状が届いた。

 その話が口コミで広がったらしい。注文が次々舞い込み、片手間でこなしきれない数になった。既製品を取り次ぐだけの、「人のふんどしで相撲をとる」のはごめんだ。団地の一室を工房にし、2年半前からホームページ(http://www.fundoshiya.com)でネット販売を始めた。「たかがふんどし」でも粗悪品はつくりたくない。ほつれなどの補修を無料にし、価格も800―1200円程度に抑えた。

 注文客は常連を含めて約2000人。60歳ぐらいを境にしてざっと半々、と中田さんは読む。寸法などをやり取りするうち、お客さんの顔が見えてくるのだ。パソコンに不慣れな人が多いせいか、注文メールに誤字脱字がよく混じる。その分、切実さが伝わってくる。

 「手縫いの愛妻ふんどしは、いってみれば、舌になじんだみそ汁の味」と中田さん。いまは従業員2人を雇って、ミシンに向かう。仕立て方ひとつで着用感がかなり違うらしく、注文は細かい。1センチ単位だ。

 「クラシックパンツ」の名前で越中褌を販売する下着メーカーのアングル(大阪)によると、ここ10数年、出荷数は増えてもいないが、減ってもいない。デパートの紳士用下着売り場などに控えめながら置かれているのが現状だが、年間2万枚強と横ばい。綿100%の白が500円、赤600円。人知れず、どっこい生きているといった感じだ。

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遊び心で「一枚百役」

 ただ締めるだけじゃあ面白くない。「ふんどしは一枚百役」と話すのは、高知県赤岡町で「はきものや ましろ」を営む間城紋江さん(46)だ。のれん、壁掛け、敷物、前掛け……。父の日や成人式に贈るのも悪くない。考え方ひとつで1枚の布も楽しめる、というわけだ。

写真:「男ののれん」

 おみやげにいかがと、3年前に「パワーアップ赤ふんどし」を、2年前から「男ののれん」を売り出した=写真。遊び心からだ。どろめ祭りや土佐絵金(えきん)歌舞伎で知られる同町は全国で2番目に小さい。町の元気づけに一役を、との思いも込める。

 以下は、間城さんが商品に添えた赤い巻紙にある「ふんどしのひとりごと」である。

 《君はおれを知ってるかい/おれは昔は大事にされたものだぜ/ここちよい風にゆられてはためく一世一代の姿を/君らに見せたかったぜ/そりゃあめぐまれた所にゃ生まれちゃあないが/おれが若く元気だったころは町の人気者だったぜ》

(北村 哲朗)



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